ビジョントレーニングの効果を科学的に整理|何が「効く」のか、どこが未確立か
執筆:健康運動指導士 中村優介
要点
目の動きや寄り目・ピント調整を鍛える取り組みは、分野ごとに根拠の強さが異なる。近くを見るときに目が寄りにくい「輻輳不全」には有効性が高い。一方で、読み書きそのものの成績を大きく上げる目的では平均的な効果は確認されていない。めまい・ふらつきのある人の「注視安定化」訓練は、見え方とバランスの改善に有効性が示されている。競技力向上をねらうスポーツ領域は有望だが、試合成績への転移は研究により差がある。
定義
本稿での「ビジョントレーニング」は、眼球運動(追従・跳躍)、寄り目(輻輳)とピント調整(調節)、視覚注意や動体知覚のドリル、注視安定化(頭部を動かしながら視線を保つ)を含む。
根拠が強い領域①:輻輳不全の治療
小児の輻輳不全では、通所型の「輻輳・調節トレーニング(週1回程度、12〜16週)」が、症状、近点輻輳、正の融像幅などを有意に改善し、他法より成功率が高いとする無作為化比較試験が複数ある。代表研究はCITTで、12週間の通所療法が症状と臨床指標を有意に改善した。後続のCITT-ARTでも臨床指標の改善が再確認された。
注意点として、CITT-ARTでは「読みの標準テスト(理解・語認識・流暢さ)」の平均改善は偽介入と差が出なかった。したがって、輻輳不全の治療は「読書時の眼精疲労などの症状改善」には有効だが、「通常の読み能力全般の底上げ」を約束するものではない。
根拠が強い領域②:注視安定化(めまい・ふらつき)
前庭機能低下などで「頭を動かすと文字や景色がぶれる」人に対し、頭部を動かしながら視線を保つ注視安定化訓練は、見え方(動的視力)とふらつき、生活機能を改善することが臨床ガイドラインとレビューで示されている。高齢者でバランス訓練に注視安定化を加えると、立位・歩行の安定が上乗せされるという報告もある。
見解が分かれる領域①:学習・読み障害
小児の学習障害やディスレクシアに対して、視機能の矯正や一般的なビジョントレーニングで学習障害そのものが改善するという考えは支持されていない。小児科学会・眼科学会・小児眼科学会の共同声明は、学習障害は主に言語処理の問題であり、視覚治療は第一選択にならないとする立場で一致している。
見解が分かれる領域②:スポーツパフォーマンス
反応時間、追従、動体視力などの指標はトレーニングで向上しうるが、それが公式試合の成績にどの程度つながるかは研究により差がある。近年の総説は「方法により効果がばらつく」「課題特異性が高い」ことを指摘している。野球打撃で打撃練習の成績が上がった予備的試験はあるが、サンプル規模や設計に限界がある。競技現場で導入する場合は、視覚ドリルの上達だけでなく、実競技の指標まで事前に設定して追うとよい。
安全と適用の考え方
以下に当てはまる場合は、自己流の強い負荷より医療的評価を優先する。近見での複視や頭痛が続く、読書で文字が動いて見える、頭を動かすと視界が揺れる、学習面の困りごとが強い。輻輳不全が疑われる場合は、適切な検査と通所プログラムでの改善が見込める。めまいを伴う場合は、注視安定化を中心に段階的に進めるのが安全である。
実施目安(一般向けの考え方)
症状が軽い人のセルフワークは、短時間・低負荷で始め、眼精疲労や頭痛が出ない範囲で週3〜5日、1回10〜15分を上限の目安にする。寄り目やピント移動は近距離ばかりにならないよう距離を変える。頭部を動かす課題は、最初は小さく、文字が読める速さから始める。悪化する場合は中止し、専門家に相談する。
まとめ
ビジョントレーニングの効果は目的で異なる。輻輳不全の症状改善と臨床指標の改善、注視安定化による見え方とバランスの改善は根拠が強い。読み能力の平均的な底上げや競技成績の確実な向上は、現時点では限定的または研究途上である。目的を明確にし、評価指標を決めて実施することが、最短で成果につながる。
参考・一次情報
輻輳不全:CITT(無作為化比較試験)とCITT-ART(臨床指標の改善、読書テストは差なし)。
学習障害と視覚:小児科学会・眼科学会の共同声明。
注視安定化:前庭リハのガイドラインとレビュー、高齢者での併用効果。
スポーツ視覚:総説と予備的介入研究。
動画と記事
実演と家庭での進め方は動画のほうが理解しやすい。今後、目的別の具体的メニューを順次公開する。YouTube「おにマス∞ YUSUKE」/ブログ記事まとめはnknktraining.com。


コメント