ミトコンドリアと筋トレ 酸素代謝を高めて強くて疲れにくい身体をつくる

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ミトコンドリアと筋トレで酸素代謝を最大化する方法|健康運動指導士が解説

ミトコンドリアと筋トレ 酸素代謝を高めて強くて疲れにくい身体をつくる

筋トレというと「筋肉を大きくする」「瞬発力を高める」というイメージが強いが、実際にはミトコンドリアや酸素代謝にも影響を与える。ミトコンドリアは細胞の中で酸素を使ってエネルギーを作る場所であり、ここがうまく働くほど、同じ運動でも疲れにくく、脂肪も燃えやすい。本記事では、ミトコンドリアと酸素代謝の基礎から、筋トレがそれらに与える影響、そして実際のメニュー設計のポイントまでを整理する。

ミトコンドリアと酸素代謝の基礎

ミトコンドリアは、筋肉を含むほとんど全ての細胞内に存在し、糖質や脂肪を分解して得られた物質と酸素を使い、エネルギー物質を作り出す。心臓や肺が全身に酸素を運ぶ「配送係」だとすれば、ミトコンドリアは筋肉の中で酸素を受け取りエネルギーに変える「変換工場」の役割を担っている。持久力の高い筋肉ほどミトコンドリアの数が多く、酸素を使ったエネルギー産生能力も高い。

筋肉の中には、ゆっくり収縮して長時間動き続けるのが得意なタイプと、速く強く収縮するのが得意なタイプがある。前者はいわゆる持久型の筋肉でミトコンドリアと毛細血管が豊富であり、酸素を使う働きが得意である。一方、後者はいわゆる瞬発型の筋肉で、短時間に大きな力を発揮できるが、酸素を使う能力は持久型ほど高くない。筋トレは主に瞬発型の筋肉を刺激するが、その刺激の入れ方によってミトコンドリアや酸素代謝への影響が変化する。

筋トレはミトコンドリアに何をもたらすか

筋トレによる筋肥大とミトコンドリアの変化を示すイメージ

古くからの研究では、「高重量・低回数・休憩長め」の典型的な筋肥大トレーニングを続けると、筋肉全体の大きさは増えるものの、筋線維あたりのミトコンドリアの体積割合が相対的に低下する、という結果が報告されている。これはミトコンドリアが壊れるというより、筋繊維そのものが大きくなるスピードに対してミトコンドリアの増産が追いつかないために「薄まって見える」という現象と考えられている。

一方で近年の研究では、筋トレによってミトコンドリアの働き、特に酸素を使ったエネルギーを作る能力が高まる可能性も示されている。特に、中程度からやや高めの重さを使い、やや多めの回数を行い、休憩時間を短めにしてトータルの運動量を確保した場合、ミトコンドリア内の酵素活性や酸素を使う能力が上がりやすいという報告も見られる。また、筋トレで筋肉のたんぱく質合成が高まる過程で、ミトコンドリアの入れ替えや機能の改善が進むことも指摘されている。

つまり、筋トレがミトコンドリアに与える影響は「やり方次第」であり、純粋に筋肥大だけを追いかけるメニューでは相対的なミトコンドリア密度が低下してしまう可能性がある一方で、運動量や休憩時間を工夫したメニューではミトコンドリアの機能や酸素代謝を高める余地があるといえる。

筋トレ特有の酸素代謝の変化 運動後の酸素消費量という視点

筋トレ後に酸素消費量の高い状態が続く様子のイメージ

筋トレはランニングなどの持久的運動と比べると、動いている最中の酸素消費量はそれほど高くないことも多い。しかし、運動後に酸素消費量がしばらく高い状態が続くという特徴がある。これを運動後過剰酸素消費といい、英語の頭文字を取ってEPOCと呼ぶ。筋トレでは、筋肉に微細な損傷が起こり、それを修復するためのたんぱく質合成、体温の上昇、心拍や呼吸の回復などに多くのエネルギーが必要になるため、運動後もしばらく酸素代謝が高い状態が続く。

特に、使う筋肉の量が多く、負荷と回数の合計が大きく、休憩時間が短いサーキット形式の筋トレでは、運動中だけでなく運動後の酸素消費量の増加も大きくなることが報告されている。こうしたやり方では、セッション全体での消費エネルギーが増えるだけでなく、運動後も脂肪を使ったエネルギー消費が続きやすくなるとされる。

このように、筋トレは「運動中の酸素消費量」だけで評価すると有酸素運動よりも劣って見えることがあるが、「運動後まで含めた合計の酸素代謝」という視点で見ると、筋トレ特有の利点が見えてくる。

ミトコンドリアを意識した筋トレメニュー設計

重さ・回数・休憩を組み合わせてミトコンドリアも鍛えるイメージ

ミトコンドリアと酸素代謝を意識して筋トレメニューを設計する際には、「筋力アップを狙う高負荷のセット」と「ミトコンドリアや心肺に刺激を与えるセット」を組み合わせる考え方が有効である。具体的には、次のような組み立て方が実践的である。

まず、筋力アップのために、スクワット、ベンチプレス、デッドリフト、ローイングなどの複合動作を中程度から高めの重さで行い、回数は少なめにして休憩はじっくり取る。このパートでは、主に神経系と筋力の向上が目的となり、ミトコンドリアへの直接の刺激はそこまで大きくないが、筋肉量を増やすことで基礎代謝の土台を作ることができる。

次に、やや軽めから中程度の重さに切り替え、回数を増やし、休憩時間を短めにして全身を動かす。例えば、スクワット系の種目と押す動き、引く動き、体幹の動きを組み合わせ、一つ一つのセットの間隔を短めにして息が少し上がる状態を保ちながら行うやり方である。このパートでは、筋肉への血流や酸素供給が増え、ミトコンドリアと心肺機能に対する刺激が高まる。運動時間は短くても、トータルの運動量が確保されていれば、酸素代謝の向上や運動後の酸素消費量の増加が期待できる。

重要なのは、重さ、回数、休憩時間を自分のレベルに合わせて調整することである。高齢者や初心者は、まずは自体重や非常に軽い重さから始め、息が上がりすぎない範囲でセット数と回数を少しずつ増やしていくことが現実的である。

筋トレと有酸素運動を組み合わせるとミトコンドリアに相乗効果が生まれる

筋トレと有酸素運動を同じ日に組み合わせるイメージ

ミトコンドリアの量と機能を最大限に高めたい場合、筋トレだけで完結させるよりも、有酸素運動と組み合わせた「同時トレーニング」が有利になることが多い。筋トレは主に筋肉量と筋力、たんぱく質合成の経路を強く刺激する一方で、有酸素運動はミトコンドリア増産や毛細血管の増加を強く刺激する。最近の研究では、両方を組み合わせることで、筋肥大と持久力の両方が高まりやすくなる可能性が示されている。

同じ日に筋トレと有酸素運動を行う場合、どちらを先に行うかで体内の反応が少し変わることも報告されている。例えば、筋トレを先に行い、その後に中程度の有酸素運動を行うと、筋肥大のための経路とミトコンドリア増産の経路の両方が刺激されやすいというデータもある。一方で、競技力や疲労の度合いによって優先順位は変わるため、一般の健康目的では「疲れすぎず続けやすい順番」を優先しつつ、自分に合った組み合わせを探すのが現実的である。

週単位で見れば、筋トレの日を二日から三日、有酸素運動の日を二日から三日というようにバランスを取り、どちらか一方に偏りすぎないようにすることで、ミトコンドリアと筋肉量の両方を守りやすくなる。

高齢者や初心者が安全にミトコンドリアを鍛えるための注意点

安全な範囲で筋トレと歩行を組み合わせるイメージ

高齢者や運動習慣のない人がミトコンドリアを鍛えたい場合、いきなり高強度の筋トレを行うのは危険である。まずは、椅子からの立ち上がり、軽いスクワット、壁を使った腕立て伏せなど、自体重を使った動きから始め、回数も少なめに設定する。呼吸を止めて踏ん張ると血圧が急に上がるため、動作中は「力を入れるときに息を吐く」を意識することが重要である。

また、ウォーキングや軽い自転車こぎなどの有酸素運動と組み合わせることで、心肺機能とミトコンドリアへの刺激を無理なく増やすことができる。週に二回から三回の筋トレと、三回程度の軽い有酸素運動を目安にし、体調や疲労度に応じて強度と回数を調整する。持病がある場合は、事前に主治医に相談し、安全な範囲の負荷について確認しておくと安心である。

十分な睡眠とたんぱく質を含む食事も、ミトコンドリアと筋肉の回復に欠かせない。特に高齢者では、やりすぎよりも「少し物足りないくらい」でやめる方が、長期的にはケガや体調不良を防ぎ、結果として継続につながりやすい。

まとめ ミトコンドリアと酸素代謝を意識した筋トレで「強くて疲れにくい身体」をつくる

ミトコンドリアは、酸素を使ってエネルギーを作る細胞内の工場であり、持久力と代謝の土台になる。従来の高重量・低回数中心の筋トレだけでは、筋肉量は増えてもミトコンドリアの割合が相対的に低下する可能性があるが、中程度の重さと高めの回数、短めの休憩を組み合わせたトレーニングや、有酸素運動との組み合わせによって、ミトコンドリアの機能や酸素代謝を高めることが期待できる。

筋トレ中だけでなく、運動後の酸素消費量が高い時間帯も含めて考えると、筋トレは「強くて疲れにくい身体」をつくるうえで非常に効率の良い手段である。安全面に配慮しながら、筋力アップを狙うセットとミトコンドリアを意識したセット、有酸素運動をバランスよく組み合わせることで、見た目と健康の両方を長期的に守ることができる。

執筆者情報 健康運動指導士 中村優介

参考になる総説として、運動全般がミトコンドリアの量と機能を高める「ミトコンドリアの薬」として働くというレビューがある。

筋トレ後のミトコンドリア量や機能変化については、筋肥大に伴う相対的なミトコンドリア体積の低下や、筋トレによるミトコンドリア機能の改善を示す報告がある。 oai_citation:1‡PubMed 中程度から高回数・短インターバルの筋トレやサーキットトレーニングが運動後の酸素消費量を大きく高めることを示した研究も複数ある。 oai_citation:2‡Wiley Online Library 筋トレと有酸素運動を同じ期間に組み合わせる「同時トレーニング」では、筋肥大とミトコンドリア増産のシグナルがともに高まりうることが報告されている。 oai_citation:3‡PubMed 高齢者における筋トレとミトコンドリアの関係について、加齢に伴うミトコンドリアの質の低下と、レジスタンストレーニングによる改善の可能性をまとめた最新のレビューもある。 oai_citation:4‡mdpi.com

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